一般的に、回路は伝達関数(特性を数式で表したもの)で表せます。その伝達関数をR,C,Lなどの素子を使って実現しているものがアナログ信号処理であり、計算や論理的な操作によって実現しているのがディジタル信号処理となるわけです。といった意味では、「DSPにはアナログ回路のシミュレーション・プログラムが入っていて、それを実時間、実データを使って実行している」と考えると分かりやすいかもしれません。(※伝達関数を実現する方法としてアナログの世界か、ディジタルの世界か、ということなのでディジタル信号処理はアナログ信号処理のシミュレーションではない。)
上述のようにディジタル信号処理は伝達関数の実現方法の一種であることが分かると思います。そのため、「DSPは素晴らしい処理をしてくれる。」と期待されている方は、残念ですが答えはNOです。しかし、複雑な信号処理を行うときには、DSPの威力を発揮します。例えば、PID制御など微分積分回路で実現できる場合はアナログ信号処理でも十分ですが、ファジィ制御、AI制御、現代制御などをアナログで実現するには非常に大規模(困難)な回路になってしまいます。ディジタル信号処理ならばそのアルゴリズムを実装をすれば実現可能です。また、対象によってパラメータを適応させる適応制御も簡単に作ることができます。信号の圧縮・伸張もディジタルならではとも言えます。
このように、『DSPは魔法の石』ではないのですが、ディジタルの利点を生かすように使うと、非常に高い効果を得ることができます。以下に、その長所と短所を示します。
●長所
- ディジタル信号処理では計算機のプログラムとして表現できる処理は、原理的にはどんなものでも実現できる。つまり、アナログ信号処理の得意でない非線形の処理、適応処理が可能となる。
- 情報圧縮、誤り訂正、暗号化などの他のディジタル処理技術と簡単に結び付けられるので、データの蓄積、伝送などにとって非常に都合が良く、色々な付加価値が期待できる。
- ビット長を長くすればするほど高精度化が実現できる。(16bitで90〜dB)
- 温度、湿度による変化や経年変化がないので、安定した品質が実現できる。
- LSI化が可能なため、小型化、経済化高信頼作、低電力化、低価格化を達成することができる。
- ディジタル信号処理は多くの場合、ディジタル信号処理専用のプロセッサであるDSPのソフトウェアで実現されるので、仕様の変更などに柔軟に対処できる。